first stage
彼女がこの世界に来て、すでに数日がたとうとしていた
彼女にしたら退院してもよかったのだが
この世界にまだ彼女が住む場所はないので
退院せずにいさせてもらっている状態だ
病室からは出入り自由なので、少しは外に出たりもしている
「よぉ、ちゃん」
「ハボックさん。こんにちわ」
「大将とアルフォンスは?」
エド・アルも次の日からは宿に泊まっているが
こっちの世界のことを彼女に教えるため毎日この病室に足を運んできていた
そのおかげでだいぶ彼女も字を読めるようになっている、と昨日司令部をたずねてきたエドがいっていた
「まだ来てないですよ。いいんですか?お仕事は…」
「今日は仕事。ちゃんのこっちでの名前、決めてこいってよ」
そういって書類を取り出して渡すが、さすがに書類ともなると文章も感覚が違ってくる
ジーっと眺めていた彼女の表情が少しずつ暗くなっていってしまう
すぐにハボックもその表情の意味に気づいた
「…読めるか?」
「ちょっと…難しいですね」
「まぁ、一応プロフィールみたいな感じでさ。あと名前さえ決まったらでっち上げられるんだ」
「そうなんですか?」
そう簡単にいくものなんだろうか?
この国って戸籍とかってどうなってるんだろう…と脳内で一人ごちる彼女
まぁ、そこまで聞く必要もないかな?ってことで
「大佐と将軍とで決めたらしい。最初は将軍の遠縁にするって話もあったんだけど
それやったら余計にめんどくさいらしくってさ。
表向きは、孤児で、今まで一人で生きてきた、みたいな感じになるらしい
それにしたら…正直出身とかがあやふやでもごまかしがきくからさ」
「…あ、なるほど」
いちいち孤児についてそんなことを調べるほど
上の人間も暇ではないだろう、という判断だったらしい
将軍の遠縁、となるといろいろやはり調べられるだろうし
「で、中尉と顔見知りで、妹っぽい感じだった、ってことにしちまうらしい
とりあえず最初のうちは中尉の家に住めってよ」
「え、いいんですか?」
「いいらしい。中尉、大佐に彼女を任せる気はありません、ってきっぱり。
大将やアルを除いて、って但し書きが付いた途端に大佐が崩れ落ちた」
その状況を思い出して笑顔を浮かべているハボックをみながら
彼女もその情景を浮かべていた
つい、あることを思い出し、くすくす笑いをこぼす
「マスタングさんがサボり魔ってのはちょっと意外な感じですよね」
「あ…ちゃんと知ってるのな」
「エドが思いっきり毒舌はくんだもの」
その言葉にはハボックも何も言い返せない
まさにあの二人の関係は、猫と鼠のようなものだから
「あ、ちなみに俺のこともファーストネーム呼びでよろしく」
話の流れからいきなりはなれるようにハボックが言った
ハボックのいきなりな発言に固まってしまった彼女。
それもそうだろう、なぜそんな話題になるのか、というものである
「俺のファーストネームはもう覚えてるだろ?嫌じゃなかったらさ」
「…わかった、ジャン兄さん、ってのでいいですか?」
「じゃあ、次中尉が着たら姉さんって呼んでやってよ、あの人そういうのに思いっきり弱いから」
意外と早く状況を理解できた彼女は、とても嬉しさに満ちていた
ここまでやさしく、大事にしてもらえていることがとても、嬉しいのだ
「うん、そうしちゃう。…ってごめんなさい、いつのまにか敬語…」
「あ、そのほうがいいって、敬語って変な感じだし。そのままそのまま」
「はーい」
お互いに笑顔を浮かべながらそんな会話をして、改めて本題に戻ることになって
ハボックがペンを取り出した
「名前、決めるか」
「うん」
「どんなんがいい?」
「」
「?」
「うん。」
「OK、決まりだな。で、ファミリーネームなんだけど…」
そういってメモを取り出すハボック
そこには4つの名前が書かれていて、それぞれがファミリーネーム候補なのがわかった
彼女はそのメモを眺めて、すぐにひとつの名前に惹かれた。
「ウイステリア?」
「あ、それがいい?アルフォンスかぁー…。ちなみにそれでウィスティリーって読むから。」
「え…」
「それアルフォンスが出した候補なんだよ」
「…じゃあ他のは…」
「将軍・大佐・アル・俺」
ひとつずつ彼が指を刺していっていたが
正直に言ってしまえば、アルの以外には惹かれなかったので
考えてくれた3人の方々を思い浮かべながらも
アルフォンスの考えてくれたウィスティリー、という名前をいただくことにする
だが、なぜアルの考えたものがあってエドのものがないのだろう。
そんなことを考えたことにすぐに気づいたらしきハボックはニヤニヤ笑いで付け足す
「ちなみに中尉とエドのは却下食らった。
…ここだけの話、中尉のネーミングセンスって最悪なんだよ」
「…人間誰しも苦手なものはあるよね」
「まさにその典型だから中尉のネーミングセンスって。他はすっごい完璧なのになー」
「一つくらい欠点はあったほうがいいと思うけど」
爆笑をこらえんばかりにちょっと不気味な笑いを浮かべながら
言葉をきちっと繋ぐ彼をよこめに、自分の名前を改めて眺めていた
・ウィスティリー。
アルったらずるいな。彼女は心の中でそう思っていた。
彼女の名前の中にある、“藤”の、この国での言葉は、ウィスティリー。
…アルは、しらないはずなのだ。
もちろん読み方は違うかもしれない。でも、表記が一緒だった。
「これできまりってことでいいか?」
「うん。・ウィスティリー、ね」
「じゃあ、・ウィスティリーとしての初めての署名、頼むわ。
リザさんと同居を始めたって書類出すんだってよ、上層部に
まぁ、プロフィールは聞かれたときだけでいいんだけど」
「うん、わかった」
・ウィスティリーと、きちんとした筆記体で書き上げた彼女。
ハボックは少し驚きながらも、それを確かめてから座っていた椅子から立ち上がった
「俺行くわ」
「お仕事がんばってね、ジャン兄さん」
「…おーよ」
冗談交じりに言っているかのような彼女の声に内心苦笑しながらも部屋を出て行く
ドアが閉まった後、彼女は意識して自分の国の言葉で話し始めた
まるで、何かの呪文を唱えるかのような、抑揚のない声
“新しき名は最初に魂に刻まれた名前に近しい意味を持ち
その名を新しく魂と心に刻む。
ウィスティリー”
言い終わった後、一度息を吐き、ゆったりとした声のまま
自然と出てくるこの国の言葉を繋ぐ彼女
彼女の体は、かすかな光に包まれていた
それは、彼女がここに来たときは別の色の光だった
「これから、あたしはなにをするべきなんだろう。
きっと、あたしにできること、するべきことがある」
つぶやきながら考え込むかのように目を閉じ続けていた
+NEXT+
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管理人の言い訳コーナー
えー、ちゃんやっと名前決定しました。
次から本編でも視点別でいきたいなぁと考えてます
ちゃんの力追加です
ちなみに、ちゃんにジャン兄さんと呼ばせるのは一つの目的でした(笑)