君限定





 あたしは。今はまだ二番隊の四席。
 でも、この隊主室の門を潜って数分後には九番隊の三席になる。
 この日をどれだけ待ち侘びた事か!
 砕蜂隊長はあたしを刑軍に入れたくてしょうがないらしく、何度も移動願いを握り潰された。それでも懲りずに諦めずに出し続け出し続け、漸く隊長が折れてくださったのだ。
 そうまで言うなら仕方あるまい。隊主会で進言してやろう。と、いっそ呆れた顔で言われたあの瞬間のあたしの舞い上がり気分がわかりますか!もうそりゃあアレよ、ホントに浮いてたよ足が地面から!
 そこからはとんとん拍子。ちょうど結婚を期に退職を考えていた九番隊の三席の穴を埋める形で、あたしは移動が叶ったわけだ。
 九番隊に行けるのなら、あたしは席次には拘らない、と砕蜂隊長には言っておいた。降格扱いでも全然構わなかったのだ。
 目的は檜佐木さんただ一人だもん!(握り拳)
 そう、あたしが九番隊九番隊と砕蜂隊長の耳にタコを作るほどしつこく言い続けたのは、檜佐木さんの傍に行くためだ。
 あたしが檜佐木さんと初めて出会った頃、あの人はまだ五席だった。
 あたしにとっては衝撃の出会い。きっと檜佐木さんはもう忘れてるに違いない。
 あれは、あたしが色んな事に自信をなくしていた時だった。
 二番隊は厳しく、砕蜂隊長は凄く尊敬出来るけど、とても遠い人だった。
 砕蜂隊長のようになりたくて、でもなれなくて、自分の力の限界を見た気がして、あたしはめちゃくちゃな鍛錬をした。
 勿論それが身体の負担にならないわけはなく、あたしの足は、自分の作り出すスピードに耐えられずに疲労骨折した。
 運がよかったのは、綺麗に折れてくれたおかげで後の禍根とはならずにすみそうな事。
 けれどあたしにとって、それは何の救いでもなかった。
 いっそ、いっそ足が動かなくなってしまえばよかったのに、そう思った。そうすれば諦めがつくのに。
 中途半端な望みは心を壊す。ならその前に、粉々に砕け散ってしまえばよかったのにと、そう思った。
 一人で動く事が出来なかったあたしは、暫く四番隊に入院する事になった。
 扉一つ隔てて、いつもと変わらない日常が流れている。
 扉一つ隔てて、あたしの日常はただ静かに流れていくだけだった。
 そんな時、間違ってあたしの病室に飛び込んで来たのが檜佐木さんだった。
 檜佐木さんが飛び込んでくるのより少し前、四番隊が俄かに騒がしくなった。きっと重傷者が運ばれたのだろうと思っていたところに、顔面蒼白で飛び込んできたのが檜佐木さん。
 よく見れば本人も怪我をしていた。

 『うおあ!?悪ぃ、部屋間違った!』
 『はあ…それより、ご自分も手当て受けられたほうが…』
 『おう、騒がせて悪かったな』

 明らかに自分の手当ては後回しにするのだろう雰囲気で、慌てて部屋を飛び出して行った。
 これだけなら、あたしの記憶には残らなかったのかもしれない。ただちょっとかっこいい人が間違えて病室に飛び込んできただけ。
 問題はそのあとだった。
 人が飛び込んできたと言うハプニングを忘れかけて、うとうととしかけた夕方頃、控えめなノックにあたしは驚いて身体を起こした。
 見舞いに来る人間なんていなかったのだ。
 そりゃそうだ。今考えればよくわかる。自棄になって無茶をやって身体を壊した人間に、なんと言葉をかけていいのかあたしだってわからない。

 『はい…?』
 『よ、さっきは悪かったな』

 今度はそっとドアを開けて、その向こうから伺うように顔を出した檜佐木さん。
 わざわざ謝りに来るなんて思ってなかったから、それはびっくりしたものだ。

 『わ、わざわざいいですよ!それより、手当て受けられました?』
 『受けた受けた。元々大した事なかったんだけどな』
 『お見舞いに行くはずだった方は…』
 『もー、脅かしやがってなー。全然元気だった』
 『よかったですね』

 他人事だったが、ほっとした。
 そのまま入り口から入ってこない檜佐木さんに、なんとなくベットの横の椅子を勧めたら、断られるかと思ったのにホントに椅子に座ってくれたんだよな。
 あたしにはそれが凄く嬉しくて。
 一人で悶々と考え込んでばかりの日々だったから、そんな風に気軽に接してくれる事が凄く貴重だった。
 それから、お互い名乗って、世間話のようなことをして、夕食が運ばれてくるまでの間ずっと檜佐木さんはいてくれて。
 夕食が届くのと入れ違いで帰って行ったんだけど、帰りしな、少し考えるような素振りをしてからあたしに言った。

 『思うほど自分の限界って近くないんだぜ?』

 一瞬何を言っているのかわからなくて、きょとんとしてる間に、爽やかな笑顔を残して去ってしまったんだけど。
 その時のお礼を、あたしはまだ言えていない。
 檜佐木さんの言う通り、退院してリハビリを終えたあたしは、あれほど限界だと思っていたのに力量が伸びた。
 入院と言うハプニングによって、身体に染み付いていた変な癖が取れたせいかもしれない。
 でもあの時檜佐木さんに出会わなければ、あたしはきっと頑張ろうとは思えなかったし、ここまでこれなかった。
 今あたしがあるのは、あの日檜佐木さんに出会えたから。
 そのお礼をちゃんと言いたくて、出来れば力になりたくて、あたしはずっと、九番隊への移動願いを出し続けてきたのだ。
 砕蜂隊長が、感慨深げに辞令書を眺めている。
 あれを受け取ったら、あたしは二番隊四席から、九番隊三席になる。

 「、散々渇望していた辞令書だ」
 「ありがとうございます、砕蜂隊長!それから…お世話になりました…!」
 「九番隊でやっていけなくなったらいつでも戻ってこい。刑軍に席を用意して待っている」

 に、っと口角を吊り上げて笑う砕蜂隊長に苦笑を返すと、無造作に渡された辞令書を大切に胸に抱えた。



 うおあー!緊張する!緊張で吐ける!緊張で死ねる!!
 やべ!今あたし右手と右足同時に繰り出してた!馬鹿じゃん!!凄まじく不自然な動きじゃん!!
 だってこれから九番隊に行くのかと思うと緊張して…。
 しかも三席だよ!?副官補佐だよ!!?檜佐木さん、じゃなくて、檜佐木副隊長の補佐役だよ!?
 あ、挨拶するんだよ!どどどどどどうしよう。ちゃんと挨拶出来なかったらどうしよう。
 えーと、本日から九番隊勤務になったです、よろしくお願いいたします。うん、大丈夫、言える言える。頑張れあたし。
 ああ、ついてしまった、九番隊…!
 恐る恐る扉を開ける。
 勢いよく扉を閉めた。
 目、目が合った!檜佐木さんと目が合った!!(死ねる!!)

 「…何やってんの?」

 重い扉が内側から開いて、呆れ顔の檜佐木さんがそこに立ってた。そりゃそうだ!今日付けで移動になってるんだから、確実に待ってた筈で!

 「すすすす、すいません!あの、本日付で九番隊に移動になったでぃ…っす!よ、よろしくおねがいしみゃ…っ」

 噛 ん だ … !!!
 は…恥ずかしい(涙)

 「そんな肩に力入れんなって。移動は初めてか?」
 「は、い、あの、ずっと二番隊であの、はい」
 「そりゃ緊張するよな。でもま、うちの隊は結構ほやーっとしてっからすぐ慣れると思うぜ」

 と、言いながら、檜佐木副隊長はあたしの背中に手を回して九番隊の詰め所に招き入れた。
 手ぇぇぇぇぇ!!!失神しますからあたし…!!

 「ん?どした?あ、悪ぃ。俺結構スキンシップとかぺたぺたするほうだから慣れて」

 慣れるかぁぁぁぁ!毎日が天国じゃコラぁぁぁぁぁ!

 「ぅおーいー、戻ってこーい」
 「ぅはい!ダイジョブです!」



 九番隊に移動して一週間。
 もうホント、毎日が天国だコンニャロー(笑顔)
 檜佐木さんは、取り敢えず挨拶代わりに頭を撫でてくれる。毎日スキンシップから始まるんですけど!
 これが大前田副隊長だったら訴えるけどね!砕蜂隊長に!
 檜佐木さんならもう、どこ触っていただいてもいいっす!
 今日なんかほっぺをぷにっと摘まれた。あたしはその衝撃に前後の記憶が吹っ飛んでしまい、どんな流れでそんな頓狂な自体が発生したのか覚えていない。
 ほっぺを摘まれた事実が脳細胞に焼き付いてるだけでよしとしよう。そこ吹っ飛んだら勿体無いから。
 が。
 一週間も経てばさすがに少し、ほんの少しだけど冷静でいられる自分と言うのもいるわけで。
 檜佐木さんは確か「スキンシップぺたぺたするほうだから慣れて」みたいなことを言ったように思うんだけど、実際他の隊員にスキンシップをぺたぺたしている光景をあまり見かけない。
 タイミングの問題だろうか。とも思うんだけど、「おはよう」のついでに頭をぐりぐりされてるのは、あたしだけみたいだ。
 それは…ちょうどいい位置にあたしの頭があるんだろうか。この身長に生まれた自分万歳。

 「ーいー、さーん?ちゃーん!」
 「は…はい!?」

 いかん、思わずぼうっとしてた。
 あたしは慌てて頭を上げた。

 「まだ慣れねえ?九番隊」
 「いえ、大分慣れましたよ」
 「ならいいけど。お疲れ気味?」
 「なんでですか?」
 「いや、ぼーっとしてるから」
 「あーそれはー…」

 檜佐木さんの事を考えてました、なんて言えない。
 あたしは苦笑でその場を誤魔化すと、手元の書類に目を通し始める。
 ふと、書き損じの書類を見つけ、顔を上げた。

 「檜佐木さん、これ…」

 う…わ!ヤバい!思わずやっちまった…!!副隊長をさん付けって!どんな部下だあたし!!

 「おー、それ懐かしー」
 「……へ?」
 「ああ、はもう忘れてっか。俺ら前に一度会ってるんだぜ」

 おぼ…覚えてますよ!って言うか、覚えて、たんだ…。
 もうすっかり忘れられてると思ってた。別に覚えてるほど大した出来事じゃないと思ったのに。
 檜佐木さんにとっては、ただ病室を間違えただけで、お詫びにちょっと話に付き合ってくれただけ。なのにどうして覚えててくれたんだろう。

 「あのあともう一度見舞いに行ったんだけど、入れ違いで退院しちゃってたんだよなー」
 「え!?そうなんですか!?」
 「って、お前も覚えてんの?」
 「覚え…て、ます」

 どころか、覚えているがためにこうして九番隊に移動してきちゃったりなんかしたわけで…。
 う、なんか、恥ずかしい。あんなちょっとした事ずっと大切にしてました的なのが見透かされそうで恥ずかしい。
 なんか、なんか話題を変えよう!そうしよう!!

 「あー…そう言えば檜佐木副隊長、頭ぐりぐるする人少ないですよね〜」
 「頭ぐりぐり?」
 「なでなで?」
 「ああ、あれな。あれは限定の挨拶だから」
 「…はっ!?」

 あたしは思わず、どこから声出してるんだと言うような素っ頓狂な声を上げた。

 「あれ、俺言わなかったっけ。スキンシップぺたぺたするほうだから慣れてって」
 「は、あ、言われました」
 「好きな子限定なんだけど、スキンシップ」
 「へ!?」

 あたしは更に素っ頓狂な声を上げる羽目になった。
 落ち着け、落ち着けあたし。なんか、めがまわる。

 「やだったらやめるけど」
 「やめないでください!いや変な意味じゃなくてだからいやじゃないって事であの!」
 「それって返事はOKって意味に取るけど」
 「う、えあ!?は、はいっ」

 うおあー!即答してしまったあたし!って言うかなんだこれいいのかこれ!?

 「んじゃ遠慮なく」

 に、っと笑って檜佐木さんはあたしの頭をぐりぐりした。
 う…有頂天で死ねる…。って言うか気持ちよくて死ねる。

 「…ぶっ倒れそうな顔してるけどダイジョブか?」
 「ぶっ倒れそうなくらい有頂天です今」
 「ふーん…。それじゃあさ、副隊長やめて今日から”檜佐木さん”にしてくんねえ?いっそ”修兵さん”でもいいけど」
 「いやあのそれはさすがに」
 「呼ばれてえんだけど、お前から名前」
 「じゃああの、檜佐木さんで」
 「残念。んじゃ、名前はそのうちな」

 そう言ってあたしの唇に軽く指を這わせると、檜佐木さんは席に戻っていった。
 その日からあたしが心の中で「修兵さん」と呼ぶ練習を始めたのは言うまでもない。




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浩ちゃんに、相互記念檜佐木夢ですvv
ヒロインちゃんがひたすら檜佐木さんの事大好きなら何でも!と言うリクエストだったので
ならあたしをシンクロさせればいいじゃんとか思ったのが間違いだった。
なんか…暴走特急でごめん(死)
あと無駄に長くてごめ…(殴打)
ヒロインちゃんは思ってることとかが全て顔と態度に出るタイプです。なので檜佐木さんはラッキーとか思ってます(笑)
こんなでよければ貰ってやってください!
わー!アレのお礼がこれかと思うと、全然お礼になってねえよ自分ーーー!!(号泣脱走)

2006/5/12脱稿
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いやいやいや!間違ってないですから!
もらったその日に学校で読んで<待て
周りに落ち着け!って言われましたから!<それくらいのめりこんだってことですよ(爆)
ていうか、あたしが顔に出すぎ!ってよくいわれるのをなんでごぞ…(強制終了)
ありがとうございましたーーーvvv